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SSNo.036 媚薬と魔女の涙

この「季節には季節ものを」しる友人より、アドバイスを頂きました。
「君はハルヒをキャラとしてはまぁ書けている方だとは思うが、『ハルヒ』を書いていない。」
と…
ずがーんって感じです。

ああ、そう言えばただ単にキョンとハルヒをいちゃいちゃさせているだけ。
今思い返してみれば、『お前など、SS作家の名を騙るなどはできん!追放じゃ』的な事を言われてもおかしく無かったわけでして、吊りかけました。本当に。
あ、あとこれのカップリングは

ハルキョン←朝比奈、鶴屋、妹、あと名もない女性etc...

長門=古泉

という何とも奇怪な関係になっております。
簡略化すると
ハルキョン←多数の女子(+微妙に長門)の長古と言う感じ。

むっちゃ長いです。長編も長編24KBです。
久々に書いたのだし、まぁこんな感じ。

ともかく「ああ、ヤバイ。『ハルヒ』を書かなければ。」と言うわけで、書いたらこんな長くなりました。
「媚薬と魔女の涙」

スタートっ!



晩夏の部室。暑いとまでは行かなくても、涼しいとも言えず。ぬるい空気が部室内に漂い、部屋の外では独特の鳴き声の蝉が、夏の終わりを告げようとしていた。運動会を目前とした学校のあわただしい。雰囲気も、部室内には無縁のようだ。半袖シャツが、肌に心地よい日である。

さて、言わずと知れた文芸部部室の中には、SOS団と称して部室の不法占拠も甚だしい、涼宮ハルヒを中心としたSOS団員が首をそろえていた。

そして、そこに充満する空気があまり芳しい空気ではない。
勘違いをしないように言っておく、決して雰囲気が悪いわけではない。断じて。
ただ、そこにある「ニオイ」があまり良い物ではないのだ。

できれば「消●力」とかなんか妙に風格のない殿様がCMしている消臭機が欲しいところなのだが、そんな大量生産品がハルヒの生み出すソレにかなうはずがない。

さて、ここで気になるのは一体全体、涼宮ハルヒが何をしているかと言う事である。
何をしているんだろう?こっちが聞きたいと思っている事は察して欲しい。

とりあえず受け取れる情報としては、
デスクトップを脇にどかした団長机の上で、
古ぼけた時代遅れの何とかギリギリ使えるというレベルのガスコンロで、
これまた相当年季が入ったベコベコの鍋を火に掛けている。

ガスコンロ付近にはハルヒ、長門、そしていつものメイド服を着用し、キツそうで今にも倒れてしまいそうな朝比奈さんが存在し、近くにはなにやら怪しげな本が置いてある。

そして、鍋に放り込まれるであろう材料は、いかにもな感じの奴ばっかりである。正体不明の草、動物の内臓らしき物が入った発泡スチロール、色とりどりの液体多数。

ついさっき、俺が
「何作ってんだ?」
と尋ねたところ、顔が紅潮した感じのハルヒに
「いーの!キョン達男子はあっちにいるっ!」
と追い返されてしまった。

肩をすくめる古泉とともに、いつものボードゲームを開始した。
「ボードゲーム」と言っても、我ながら昔に返って「遊●王」。今なお続く、歴史あるカードゲームである。『バーサーカーソ●ル』とか有名だ。
古泉がすぐ用意した。スターターデッキ二種類。あと、細々したパックが20パック。古泉と分けて10ずつだ。
あの頃から時が過ぎ、最近は少しルールが変わったらしいが、そこのところはルールブックに任せ、デッキを適当に組み直し、試合開始。
ライフポイント4000。

じゃんけんの結果、俺が先手となった。
「とりあえず、『炎を操る者』を召還。カードを二枚伏せ、ターンエンドだ。」
なめらかな動作で、山札からカードを取る。
「僕のターンです。ドロー。」
いちいち言わなくても良いだろうに。
「カードを二枚伏せて、ターンエンドです。」
俺は、カードを引く。
「俺のターン、ドロー。」
あくまで力無く言う。頭ギザギザの多重人格者とは一緒にして欲しくない。
「俺は『黒魔術のカーテン』で『ブラック・マジシャン』を特殊召還。」
効果により、俺のライフポイントは半減。残り2000。
「二体同時攻撃。」
二体の攻撃力の合計が、3300ポイント。丸腰の古泉に直撃。
残り700ポイント。
「ターンエンド。」
ふむふむと解っているのかどうなのか、よくわからないままに。解ってるっぽい声を出す古泉。
「僕のターン、ドローです。」
魔法カードを一枚取り出した。
「『カオスの儀式』です。それによって『カオスソルジャー』を…」

「できたっ!!」
古泉の解説にわって入ったのは、言うまでもない。ハルヒだ。
グツグツやってたぶんだけ一応興味はあるというものだ。

「何ができたんだって?」

俺はハルヒにそう問う。

「薬。」

その薬が一体どのような効能をもたらすのかを知りたい。

「えーっと…」

ハルヒは本を持ち出して、目を泳がせながら言った。

「うんとね、そう。―――肩こり、腰痛、目の疲れ、体のだるさ、睡眠不足などあらゆる疲労をいやします。って。」

「ほう。つまりハルヒ、お前は疲れているのか?」

「違うわよっ!」

ハルヒは叫んだ。そう叫ぶ事もないように思えるのだが。
ともかくハルヒは顔を赤らめつつ、しどろもどろに言った。

「アンタが…最近、疲れてるかなって思って、ね?」

「つまり…俺のために作ってくれたと?」

「な、何よ!いらないの!?」

せっかく作ってくれた物を、わざわざ押し返す事はない。
…とも言いづらい。と言うか暗黒魔術的な展開で作られていた物を、ほいほいと服用できるかとも言えない。
要するに工程からしてヤバそうだから、できた物もヤバそう。という展開だ。

「良薬は口に苦しという。」

「だから何?」

「それはとてつもなく苦くて、どんな風に苦いか実験のために俺が使用されるのではないかと懸念している。」

「それは無いわ!」

ハルヒは自信満々に言い放った。そして―――

「あの…これ、なんだけど…イチゴ味だから。」

赤い顔で差し出してくる、瓶に入った薄い赤の液体。
イチゴ味って一体どうなってんだ?

ハルヒの言葉を信用し、俺は一息に瓶の中身を飲み干した。

―――ドクン。

ワインを飲んだときのように、体全体に熱い波が走り抜ける。

「キョン!こっち向きなさい!」

高圧的なハルヒの言葉通りに、俺はハルヒの方へと視線を戻す。
その瞬間に、ハルヒが愛しくなった。
次の瞬間に、キスをしていた。

「き、きょん?」
「ありがとう、ハルヒ。結構気分が楽になったみたいだ。」

俺はハルヒの耳元で囁く。
ハルヒから足の力が抜ける。そのままペタンと床に座り込んだ。

「大丈夫か、ハルヒ。顔赤いぞ?保健室に行くか?この時間は教師がいないかも知れないけどな。まあ、そしたら変わりに俺がそばにいてやるから。」

ぼん!とハルヒの首から上が爆発したように赤くなる。トマトみたいだ。
そして、すぐに鞄を持つとそのままドアに向かう。

「あ、あたし、先に帰るから!閉じまりはよろしくっ!」

全力疾走でハルヒは駆けていった。韋駄天じゃあるまいに。


「どうしたんだろうな?ハルヒの奴。」

そう呟いた後、ふと視線を感じて部室内を見回せば、カード途中の古泉、鍋の脇にいる長門と、朝比奈さんが俺を見ていた。
まるで、人以外の物を見たような感じで。
と、この三人は人以外にカテゴリされるんだったと思い出す。が、そんな一瞬は関係なく。しばらくの間、部屋の中央に俺で、他の三方向からまじまじと観察されるような目で見られているというよくわからない状態になっている。

「一体どうしたんですか?」

沈黙を破ったのは古泉だった。

「別にどうもしない。」

平然と俺が答えると古泉は怪訝そうな顔をして言った。

「あなたが涼宮さんにした事を丁寧に思い出してください。」

疑問を抱きつつも、古泉の言う通りにしてみる。
まず俺は、薬を飲んで…ハルヒと、キスをして…耳元で囁いた挙げ句、教員がいないかも知れない事を前提に保健室に行こうと言った。

一体ハルヒ相手に何やってんだ、俺。
頭を抱えてひざまずく俺。
あぁ?何やってんだ?ハルヒに俺は何をしているのだ?
なんでみんなの前で、堂々と、それもハルヒにキスをするんだ?

一人葛藤している俺の頭の上で長門が言う。

「非物質性有限型感情干渉情報発情フォルム。」

口を開いたのは長門だが、いまいち意図が汲めない。
当然、みんなが(?)となっている。

「おそらく先ほどの薬が原因と見られる。あなたがそれを服用した事により、情報が発動した。」

「つまり、ハルヒが作っていた効果って事か?」

「そうではない。涼宮ハルヒが作っていたのは何の効力も持たない液体であり、涼宮ハルヒの願望がその効力を情報に具現化して発動させた。」

またハルヒか。アイツももう少し控えめに何かするって事を考えてくれないのだろうか。
俺がハルヒに対する文句を頭の中で並べていると、古泉が思いだしたように疑問を口にした。

「その効果とはどのような物でしょうか?」

「涼宮ハルヒの願望が具現化した物とされる以上、ベースとなる概念が存在する。おそらく―――」

長門が、団長の机の上にある本を指さす。

俺は、団長席の本を手にとって見てみる。

えーと、何々?
『ホレ薬
 原料:(割愛させてもらう)
 効果:服用した場合、最初に見た異性を中心として好意的に見られる行動を無意識的に行うようになります。効果は有限です。服用の対象は主に自分ですが、気になる異性に対しての服用も効果が得られると思います。』

何じゃこりゃ。
なんか薬品の説明書っぽい解説が書かれているが、そんな事はどうでもいい。そうじゃない。
問題は『なんでホレ薬なのか』だ。しかもこれはホレ薬ではなく『ホレられ薬』何じゃ無いだろうか?文面からは、そうとれるわけで―――

ふと気が付いた視線に目を向けると、朝比奈さんが熱っぽい視線を俺の方に向けていた。頬が紅潮していて、その顔はあこがれの先輩を影ながらそっと見る下級生のような面影である。
そしてその視線は、俺に向けられているわけで。

「俺の顔になんか付いてますか?」

「………」

何となく上の空で、俺の声が耳に届いていないご様子である。
表情からして熱っぽいので、朝比奈さんに確認をとろうと近づいた矢先であった。

―――ギュッ

体が、自然に朝比奈さんを抱きしめていた。
朝比奈さんを抱きしめた感想はと言えば、骨が無いかのように柔らかく、甘い香りが鼻孔をくすぐる。胸部に女性独特の丸みが押しつけられ『ああ、女性を抱きしめているんだなぁ』という感覚が大いにする。

「キョン君。」

俺を呼ぶ甘い響き。
―――なんか物足りない。

「どうしました?朝比奈さん?」

潤んだ目で朝比奈さんが腕の中で俺を見上げる。
その上目遣いは可愛らしく、天使を抱いているかのような夢心地である。
―――俺が求めているのはコレじゃない。

「なんかね、熱っぽいの。でも、風邪とか…そう言うんじゃなくて、なんて言うか…そう、今日のキョン君。いつもよりかっこいいですよ?」

朝比奈さんがしどろもどろ言うセリフは、まるで俺たちが恋人であるかのようなセリフである。
―――気付け!

瞬間的に戦慄が走る。冷水をかけられたような寒気、ナイフを突き立てられたような怖気。

―――イッタイオレハ、ナニヲシテイルンダ?―――

「長門、これはどうしたんだ?」

「………」
「キョンくぅん。」
長門の視線がキツイ、朝比奈さんが俺の胸に顔を埋めてきて感覚が麻痺しそうだ。
重苦しい沈黙の中、長門が口を開いた。

「おそらく朝比奈みくるは、『非物質性有限型感情干渉情報発情フォルム』の影響を受けているものだと考えられる。」

「対処法は?」

「ナノマシンを注入する。」

そう言った後、長門は朝比奈さんの腕を取り袖をまくり上げて、朝比奈さんの腕を噛んだ。
次の瞬間には目を見開いた朝比奈さんが真っ赤な顔で、謝罪を始めていた。

「きょきょ、キョン君!違うんです!これは、その…キョン君の顔がかっこよく見えて、つい見とれちゃって。そのまま…そうです!雰囲気に流されちゃってぇ!!」

早々と腕の中から出てしまった朝比奈さん、良かったような残念なような。

「ともかくとして…」

俺は長門に歩み寄る。

「長門、俺はずっとこのままなんだろうか?」

長門は驚いた感じの表情でこちらを見上げている。

「長門…助けてもらえないか?」

俺が長門の顎に指をかけたところで、古泉が静止に入った。

「ストップです。」

「ん?何がだ?」

古泉がやれやれと言った動作で肩をすくめる。

「もう一度、自分がやった事を思い出してください。」

俺は長門に歩み寄って、話していくうちに長門を押していくかたちとなり、壁に長門が背を付けた状態になっている。冬の時のデジャヴ。
そして、長門の顎に手をあて、俺は何をしようとした?
思考がぐるぐると景気よく回る。自己嫌悪の極致に達しようとしたところで、俺は頭を抱えて崩れ落ちた。

「うぁ、やべぇ死ねる。俺死ねるよ…」

自分でも何言ってるのか解らなくなってきたところ長門が口を開く。

「不覚。」
「全く、長門さんもしっかりしてもらわないと。目の前で堂々とキスなんかされたら、さすがの僕も枕をぬらしてしまいます。」

と、ちょい待ち。
這いつくばった姿勢から、二人を見上げる。

「え?お前等付き合ってんの?」

「あ…」
「バラしてしまいましたね。」
長門が驚きで口に指をやり、古泉が肩をすくめる。

「お察しの通り、僕らは付き合ってますよ。まさかこんなかたちでバラしてしまうとは思いませんでしたが。」

俺は驚きを隠せない。

「いや、あなた達の手伝いをしようかと話しになったとき…ね。まぁ色々とありまして…」

俺たちの手伝いって何だ?

「でも、どうしましょうか?この場合だとSOS団以外の人にも情報の影響が及んでしまいます。」

「長門、何とかならんか?」

「ならない。」

きっぱりと言われてしまった。
何ィーーー!直せないだと!

「厳重なプロテクトがかかっている。解除コード不明。解析不可能。」

「な、ナノマシンは?アレなら、俺の中の情報をとどめる事ができるだろ?」

「可能ではある。しかし、私が近づいたところでまた先ほどと同じ事になってしまう。いっ…古泉一樹のためにも、それはできない。」

「お前自身に保護フィールドとか展開できるだろ?」

「フィールドを展開したまま、ナノマシンは注入できない。よって、不可能。」

長門が、申し訳なさそうに一ミリほどうつむいたように見えた。眉も微妙に下がり気味のようだ。
最後の頼みの綱がプッツリと切れた俺は途方に暮れるしかないのだが、部室で途方に暮れていても家には帰らねばならない訳で…

「ま、一番の対処法は女性に近づかないってことかね?」
「それが、懸命でしょう。何なら、『女性は僕に近づいてはいけません』と書かれたプラカードでも作りますか?」
「冗談はよしてくれ。」

まあ、これ以上の会議は無用。長門によれば、二日後には効果が切れるそうなので、家でゆっくりとしている方が良さそうだ。
俺は簡単に荷物をまとめると言った。

「帰る。」

「キョン君!頑張ってくださいね。」

ありがとうございます、朝比奈さん。
でも、その距離が俺が病原菌扱いされているようで心が痛む。朝比奈さん本人に悪意はないので、仕方ない事ではあるのだが。

と、俺がドアに近づいたときに「ドンッ!」と壊れんばかりの勢いで、ドアが開かれた。ハルヒが帰ってきたと思ったとき、鼓膜が破れんばかりの大音量が耳に響いた。

「にょろーん!鶴にゃんのごとーじょー、だ、よー。って」

台風のごとき勢いで登場した鶴屋さんは急に、くてんと俺の胸に身を預けてくる。

「つ、鶴屋さん?」

「キョン君、そんな男前になっちゃってぇ~。鶴にゃん、ときめいちゃったにょろ?責任はどー取ってくれるのかなぁ?」

とろんとした目で俺を見上げてくる。
今日の鶴屋さんもいつもより数倍綺麗だ。ネクタイがしゅるしゅるとはずされる。
―――目…覚……。

「そうだなー、ちょっとキョン君に、触れて見たくなってきたにょろ。」
「そんな、大胆に…焦らなくても、俺は逃げませんよ?」

鶴屋さんはワイシャツのボタンをはずしていく。
一つ目、透き通るように白い手。
―――目…覚ま…。

二つ目、見るからにいやらしい手つき。
―――目…覚ませ。

三つ目、手の柔らかい感触。
―――目を覚ませ。

四つ目、鼻孔に香る甘い香り。
―――目を覚ませ!

五つ目、鶴屋さんの淫靡な笑顔。
―――目を覚ませッ!!

六つ目、全てがはずされたとき、鶴屋さんはワイシャツ自体に手を駆けた。
―――目を覚ませっつてんだ!!!

頭に浮かぶ映像。
―――ハルヒ…

「鶴屋さん!?」

次の瞬間には、鶴屋さんを突き飛ばす。
『にょろー!?』とか言った声を上げ、鶴屋さんはひっくり返った。

不快を与えない程度に後ずさる俺。
鶴屋さんは上体を起こした後、キョロキョロと周りを確認し、状況を確認。
半裸の俺を確認して、しばしの沈黙後。

―――ボンッ!!

盛大に顔を赤くした鶴屋さんは俺を見て、
「きょ、キョン君ごめんさッ!!」
ハルヒに劣らぬ速さで部室棟の廊下を駆けていった。

あの人が顔を赤くしたの初めて見たな。

振り向けば、古泉が肩をすくめていた。
「先が思いやられます。」
うるせぇ。

結局、帰る途中に数名の女性が近づいてきて情報にあてられたらしいが、こちらから避けるように遠ざかると、女性達は首を傾げつつ別の方向を言った。
だがしかし、そんな努力も実ることなく、坂の途中で姉御風味のお姉さんに絡まれてしまった。

「かわいいねぇ、僕ぅ?」

結構柄の悪い、族のリーダーとかやってそうな人だ。
そんな人に限って顔立ち整っていて、恐ろしく凶悪である。
なんでこんな人に絡まれるかなぁ。
右後頭部に女性特有のふくらみを感じているのだが、正直喜べない。
ふと気が付いたのだが、ここで俺は理性を失ったような言動をしていない。
おそらく、初対面の人には相手は効果ありでも俺は効果無しなのだと思う。
都合がいいのか悪いのか。そもそもこんな物はない方が良かった訳だ。

俺は女性が手の力を緩めた瞬間、全力疾走で逃げ出した。
あの手の人は逆上してくると思うので、状況を理解される前にさっさと退散する方が懸命だと考えたのは常識の範疇にあるはずの行動で間違いないよな?


坂下で自転車を拾い、全力で走った。
自転車に乗っていれば女性どころか人さえも、効果範囲に入ってこないとは思うのだが、こんなの耐えられた物じゃない。てか、ふとした瞬間にってことがあると俺も相手も大迷惑だ。なるべく止まらないように注意しつつの全力疾走であった。


家に着いたときは息も絶え絶えである。下手すりゃアイアンマンになるのも夢じゃないかもしれん。ま、もとよりそんな体力は俺には無いのだが。
まあ、ともあれ一応無事に家へと帰り着いたわけで、二日間をこのように過ごすとなるといささか気分は落ちる。自転車を片づけて、家の前に立っていても仕方が無いのでノブに手をかける。なんでこのとき気が付かなかったのでろう。こんな事で後悔するとは思わなかった。

ドアを開け、ただいまと声を掛けて階段を登る。二階へ上がって、部屋に入っていくと妹がシャミセンと戯れていた。

「あー、キョン君だー。」
「キョン君だー、じゃないだろ?人の部屋に無断で入るんじゃありません。」

ベッドに座り、鶴屋さんにはずされたネクタイを今度は自分ではずす。
アレだな、今日の俺は女難の相が出ているのだ。誠に辛い。
ある種での幸福だが、そんな物は仮初めの物に過ぎないのだ。意味がない。
それに、どんな女性と一緒にいても「何か」が必ず引っかかる。
その「何か」が、出そうで出ないところが悔しいところではあるのだが、それはそうとして。

「うんしょ。」

妹がベッドの上に登ってきた。そして俺の膝にちょこんと座る。体重もまるで感じない程度の重さしか無いわけだ。ま、今年で六年生のくせして甘えん坊である。これぐらいはまだいい。

「キョン君、疲れたぁ?」

体勢を変えて、俺と対するかたちとなる。

「なんだろー、キョン君…いつもより、かっこいい?」

首に手を回す。妹の甘ったるいお菓子のにおいのする吐息が顔にかかる。
こう見えて、幼稚園児体型のくせに顔は整っているのだ。
妹がまたがっているのは、アレの上である。この場合のアレが一体何を差すのかと言う事は察して欲しい。
妹に欲情?ざけんな。俺はシスコンじゃねぇ。『●は妹に恋をする』とか言うふざけた漫画があったが、あんなのは全兄貴(妹保持者)連合会の敵だ。
とか何とか考えつつも、情報と理性が必至でせめぎ合っている。

ここはベッドの上だ。
親も炊事をしていてしばらく上がってこない。
妹の顔が赤い。

待て待て待て待て。冗談じゃない。
こんな状態になってたまるか。
兄貴の理性をなめんじゃねぇ。

頭の中がこんがらがっていて、判別が着かなくなる寸前に電子音が部屋に響いた。俺のポケットの携帯が鳴る。

「ちょっとどいてろ。」
妹をベッドの上に寝ころがす。
「きゃあ☆」

着信:涼宮ハルヒ

「もしもし?」
『もしもし、キョン?アンタ大丈夫?』
「ああ平気だ、一応な。それよりハルヒ。何だあの薬は。疲労回復の薬じゃなかったのか?」
『ああ、それは…その…ぺっ、ページを間違えたのよ!そ、ページを間違えちゃってさ。後で調べたら、あー違ってるじゃんみたいな。ホントよ!別にアンタを薬で籠絡しようとか、そう言う下心みたいなのはないだからねっ!!』
「………」
『もしもし?』
「何だ?」
『信じてるよね?』
「ああ、信じてやらん事もない。」
『それで、その…解決方法、みたいなの?見つかったから、うちに来てくれる?』
「本当か?また変な薬飲めとかそんなんじゃないだろうな?」
『ばっ!そんな分けないじゃない!良いから来なさい。住所言うから!』
「あいあい、解ったよ。行けば良いんだろう?」

住所を言われた俺は、地図を確認した後、友達の家に行って来ると言って家を後にした。止まる事も無い全力疾走だったのは、もはや言うまでもない。

=====

携帯電話を駆使しつつ、たどり着いたハルヒの家は豪邸と言うほどでもないが、うちほど小さくなく『ああ、良い家だなぁ』と言う感想がわかりやすい、普通よりもふた周りぐらい大きな家だった。

インターホンを押そうとした手が止まる。動悸が速く、耳が熱い。一体何を緊張しているんだ?俺は。
深呼吸をしてから、今度は確実にインターホンを押す。
ピンポーン
ありがちな電子音がしてから、マイクがつながる。

『はーい、キョン?』
「ああ。」
『開いてるわよ、入って。』

と、言われましてもですなぁ…
非常に躊躇しつつ、俺は石の扉のイメージでドアノブに手をかけた。
ドアの前にはハルヒが立っていて、それも仁王立ちで不機嫌そうだ。そして何故かエプロンをしているハルヒに新鮮さを覚える。

「遅い!ドア開けるのに一体どれだけかかってんのよ!」
「悪い。お邪魔します。」

上がった瞬間にハルヒが俺から遠ざかる。朝比奈さんの時とは違い、今度は突き刺さるような痛みが胸を襲った。その原因はハルヒの行動である事は間違いないのだが、何故こんなに苦しいのか俺には理解できなかった。

とりあえずはリビングに通され、外装よろしく風情ある内装が「お金あるなぁ」という感じを表している。

ソファに座っていると、ハルヒが料理を持って現れた。
「今日は、親がいなくて一人だから、明日まで帰ってこないから、一人で料理作っただけなんだから、一応もう一人分あるけど…食べる?」
「あー、ご両親はいないのか?」
「うん。」
「そんな日にお邪魔して大丈夫なのか?」
「うん。キョンなら…」
「はい?」
「あ、いやなんでもないから…」
「そうか。」
首を傾げつつも、一応料理を頂く事にした。
親にはメール入れて置いたから、大丈夫だろう。

「それでさ、薬の効果をなくす方法って…」
「あ、それはご飯食べた後じゃダメ?」
「まぁ良いが…」

何だろう?今の違和感は?何となく、先延ばしにされたような感覚。

「どう?」
「ん、美味い。」
「そ。」

簡潔な会話が何となく気まずい。
嬉しいような、悔しいような何とも言い表しがたい感情が俺の中で渦巻いていた。
飯の後、片づけを終えたハルヒが俺に話しかける。

「今日、泊まっていかない?ほら、明日とか休みだし。」

突然の提案に俺はあっけにとられる。
が、すぐさま反論に回った。

「あのな、俺たちは高校生である。そして俺は現在こんな状態だ。いつ間違いが起こってもおかしくはない。立場上そう言う事を避けたいのだが。」

「そっか、そうよね。」

ハルヒの耳が赤くなる。少しずつ、ハルヒの目に水が溜まってきた。

「ごめんね。無理させちゃって。本当はもっと早く帰らないといけなかったのよね?」

ハルヒの笑顔。しかしそれは作った物に過ぎなかった。

「薬の効果を消すには、好きな人の涙を飲めば良いんだって。これは本に書いてあった通り。薬の効果も本当だったんだから、解除法も本当だと思うから。」

「でも俺には―――」
「あたしは!」

好きないないという言葉を紡ぐ事ができなかった。

「あたしは、好き。キョンの事が好きなのよぉ。」

ハルヒはとうとう耐えきれずに涙を流し始めた。

「どうしようもないぐらい。少しだけでもキョンが離れるだけで、とてつもなく苦しくて…」

その言葉は俺の胸を打った。俺の感覚と同じだ。ハルヒから距離を取られる事に苦しみを覚えた。他の女性が近くにいたときに、情報にあてられたときにチラつく違和感の原因。全てこれだったんだ。

「今のは忘れて、みっともない姿だったし。気にしなくても良いのよ。同情なんて…いらないから。」

肩が、声が震えている。背を向けたハルヒの姿。
その背中が愛しくて、ハルヒに歩み寄る。

「来ちゃダメッ!薬の効果が出るから!」

俺は一歩ずつ、近寄っていく。

「ダメだって、同情はいらないの。」

「同情なんかじゃない。」

腕で輪を作って、その中にハルヒを通す。
後ろから、その背中を抱きしめるかたちとなった。

「キョン?」

「そう、グズるな。ハルヒ。」

ハルヒの頬をついばむようにキスをした。口の中に優しい塩味が広がる。
胸の奥のわだかまりがスーッと引いていくような気がした。

「俺も好きだよ。ハルヒ。一人合点はやめてくれ。」

「うそ…」

「嘘なもんか。リアルだ。」

ハルヒを自分に向き直らせて、唇の触れ合うキスをした。
自分でも、顔が紅潮していくのが解る。

「キョンは、あたしの事好きじゃないって思ってた。やっぱり好きなのはみくるちゃんとか、そこら辺かなぁってさ。でも、キョンってふとしたところで優しいんだから。そりゃあたしだって惹かれるわよ。気が付いたときにはどうしようも無いぐらいキョンが好きだった。だけどいつも無理させてるから、あたしなんて見向きもしてくれないってそう思ってた。」

「だから、薬を?」

「うーん、どうかしら?結局、解決方法を教えてキョンが好きな人を知りたかったからかな?」

「知ってどうしてた?」

「さあ?ああ、この人かって解ったらあきらめがつくと思ったから?どうだろう?でも、最終的に聞く勇気なくなっちゃって、せめて自分の思いを言っちゃえ!みたいな感じかしら?そんなところよ。」

「そうか。」

「んで、この後どうするの?泊まっていく?一晩と言わず、二晩でもかまわないわ。彼氏である以上、相手のお願いも聞くべきよね?」

そうだな…

俺は少し考えてから答えを口にした。
これ以上何か語る気はない。

ま、強いて感想を言うなら、ハルヒの家の風呂は二人で入っても十分に余裕があるほど広くて。その、抱き心地って言うのはとても心地良い物だった。とだけ。

それ以上は少なくとも二年後、18歳になってからでも語ってやるよ。

=終=

=あとがき=

久々のSSでしたがうまく書けたでしょうか?(汗
ハルヒが起こしうる事象についての作品を作る事が大切だって言われました。
ハイ、全くその通りにございます。自分が未熟でした。

ハルヒに簡単に泣いてもらうのはちょっと抵抗ありましたが、黙殺。
とりあえず、またのんびりと学生ネタを書いていこうと思います。
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テーマ : 涼宮ハルヒの憂鬱関連
ジャンル : アニメ・コミック

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長編お疲れ様です! そして面白かったです。
キョンモテすぎだろwww さすがハルヒ特性薬www
でもさんざんいろんな女性とアヤシイ雰囲気になりながらも
最後はハルヒの元へ行くわけですね。
>『ハルヒ』を書いていない
うはww耳が痛いwww
というか、それぞれの中に『ハルヒ』の世界ってあると思うんですよね。
だから個人的には今までのスタンスでも構わなかったと思いますが、
でもきっとこういう意見から挑戦されて幅が広がるんでしょうね。
しかし自分の書いてる話ってどうよ、と考えさせられるセリフでした。
お友達も若いでしょうに深いなー。

面白かったですよぉ
いろいろカップリングが交差してたけどね・・・・・(TωTクスン)
とってもあれでしたはいハルヒっぽくどてんばでGj∑dみたいなw
ところとろこで(とろこw)ブログができましたぁハルキョンですよぉ
http://bamk.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_c7ea.html
こんなかんじですそれでぇですねダメならいいんですが季節には季節のものを様をはっても良いですかねリンクに(・・・;
プロフィール

ゆーいち

Author:ゆーいち
涼宮ハルヒのSSを書いています。

カップリングは
ハルキョン、キョンハル。

シリアスネタは思いつかないのでなし…ということで。



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